グループ会社間取引は要注意

グループ会社間取引は要注意——令和8年度改正「関連者間取引の書類保存特例」でやるべきこと

※本記事は執筆時点(令和8年8月)の公表情報(令和8年度税制改正法、令和8年6月30日公表の国税庁事務運営指針・法人税基本通達17-3-1〜17-3-11)に基づく一般的な解説です。

1. どういう制度か

令和8年度税制改正で「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」が創設されました。

一言でいえば、「グループ会社間でやり取りするお金について、“いくらを・どう計算したか”を書類に残しておきなさい」という制度です。

契約書・請求書などに対価の算定に必要な事項(必要記載事項)の記載がない場合、その足りない部分(特定事項)を明らかにする書類——特定事項記載書類——を取得・作成し、保存することが義務付けられました。

適用は令和8年4月1日以後に開始する事業年度から。つまり、多くの会社ですでに始まっています。3月決算法人なら令和9年3月期が初年度で、確定申告期限までに書類を整えておく必要があります。

2. 誰が対象か——「関連者」とは

対象は、内国法人が「関連者」との間で行う一定の取引です。関連者とは、おおまかにいえば持株関係や実質的な支配関係でつながった法人です(法規59の2③〜⑥)。中小企業で典型的なのは次のような関係です。

  • 親会社と子会社(ホールディングス化した会社と事業会社)
  • 兄弟会社(同じオーナー・同じ持株会社の傘下にある会社同士)
  • 社長やその親族が実質的に支配する複数の会社の間

事業承継対策でホールディングス体制を組んだ企業グループは、まさにこの典型です。

一方で、対象外となるものもあります。

  • 社長「個人」と会社の直接取引(役員報酬・個人からの借入等)は原則対象外
  • 商品の仕入れ(売上原価)は原則対象外——対象は主に販管費に関わる取引です

3. どの取引が対象か——「経営指導料」は

対象となる取引(特定取引)は、大きく次の2類型です。

類型中小企業グループでの具体例
① 工業所有権等の譲渡・貸付け親会社が持つ商標・特許・ノウハウを子会社に使わせて使用料を取っている
② 役務提供経営指導料・業務委託料・技術指導料、グループ共通の研究開発費や広告宣伝費の分担金、本社ビルやシステムなど専用資産の利用料

お気づきのとおり、「親会社(持株会社)が子会社から経営指導料を取っている」ケースはこの制度のど真ん中です。従来から税務調査で「経営指導料の実態・算定根拠」は定番の指摘事項でしたが、今回、書類レベルで根拠を残すことが正面から制度化された、と理解してください。

4. 何をすればいいのか——実務チェックリスト

やることはシンプルです。「契約書+請求書を並べて、必要記載事項が読み取れるか確認する」——これに尽きます。

経営指導料(経営の管理又は指導等に係る役務提供)の場合、必要記載事項は次の2つです。

  1. 役務提供の明細及び内容(例:指導が行われた日時・場所・期間・回数、指導の具体的内容)
  2. 対価の額の明細及び計算の方法(例:金額の内訳と、その計算方法)

そのうえで、次の点を押さえてください。

◎ 複数の書類の組合せでOK 一つの書類にすべて書かれている必要はありません。「内容と金額は請求書に、計算方法は契約書に」という組合せで必要記載事項が確認できれば、追加の書類(特定事項記載書類)は不要です(法基通17-3-7)。

◎ 計算方法は「売上高の○%」で足りる 「経営指導料は子会社売上高の○%」といった記載が計算メモにあれば、求められる記載レベルをクリアします。しかもこの特例に基づいてその料率の妥当性まで問われることはありません。求められるのは、第三者が取引の内容を客観的に把握できる程度の記載です。

◎ 逆にNGなのは 対価が「一式」とだけ書かれている、取引内容が「業務委託料」など抽象的な表示のみ——こうした場合は必要記載事項の記載があるとはいえず、特定事項記載書類の作成・取得が必要になります。

◎ 移転価格のローカルファイルがある場合 国外関連者との取引についてローカルファイルを作成・保存していれば、その記載で必要記載事項が確認できる限り、この特例の追加対応は不要です。

5. 書類がないとどうなるか

この特例に基づく書類の保存義務に違反した場合、青色申告の承認の取消事由に該当し得るとされています。青色取消となれば、欠損金の繰越控除や各種の中小企業優遇税制が使えなくなるため、影響は甚大です。

ただし、事務運営指針では、書類の保存等がないことをもって直ちに損金不算入や青色取消となるわけではなく、段階的な運用が想定されていることも示されています。過度に恐れる必要はありませんが、「調査で求められてから慌てて作る」のでは遅く、申告期限までに平時から整えておくのが本来の姿です。

6. まとめ——今期の申告前に「グループ間取引の棚卸し」を

  • 令和8年4月1日以後開始事業年度から適用。すでに始まっている制度です
  • ホールディングス体制・複数会社経営のオーナー企業グループは、ほぼ確実に対象取引があります
  • やることは「契約書・請求書に、取引内容と金額の計算方法が書いてあるか」の確認。足りなければ計算根拠のメモ(特定事項記載書類)を整備
  • 「売上高の○%」レベルの記載で足り、料率の妥当性までは問われません
  • 放置すれば青色取消リスク。今期の決算・申告前に一度、グループ間取引の棚卸しを

当事務所では、事業承継に伴うホールディングス体制の設計から、経営指導料の水準設定・契約書整備・本特例への対応まで一貫してサポートしています。「うちのグループ間取引、書類はこのままで大丈夫か」というご相談だけでも、お気軽にお問い合わせください。


本記事の内容は一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。