全東信破産 貸倒損失の計上について
全東信破産——未入金のカード売上、「いつ・いくら」貸倒処理できるのか
※本記事は執筆時点(令和8年8月)の公表情報に基づいています。実際の処理は法的整理の進行や個別の契約関係により異なりますので、必ず個別にご確認ください。
1. 何が起きたのか
クレジットカード売上の立替入金サービスを手掛ける株式会社全東信(大阪市)が、令和8年7月6日、大阪地方裁判所より破産手続開始決定を受けました。負債総額は約1,259億円と報じられており、同社のサービスを利用していた飲食店等の事業者では、カード決済は済んでいるのに立替入金がされていない売上代金が回収困難となる恐れがあります。
破産手続開始までに立替支払を受けていない未収売上金は破産債権として扱われ、当初の期限どおりの入金は受けられません。今後、配当の可能性が生じた段階で破産債権届等の手続が案内される予定とされています。
2. まず最優先でやること——債権届出
税務処理の前に、破産管財人への債権届出が最優先です。
- 裁判所が定める債権届出期間内に、未入金分の債権を届け出る
- 配当による回収は限定的と見込まれるものの、届出の事実そのものが、後の貸倒処理や共済・保証における「回収困難」の裏付け資料になる
届出をしていないと、いざ損金処理をする際に「回収努力をしたのか」という点で説明が弱くなります。金額の大小にかかわらず、必ず届出をしておいてください。
3. 今期できること——貸倒引当金50%の繰入れ
「破産したのだから、すぐ全額を貸倒損失にできるのでは」と思われがちですが、破産手続開始決定だけでは貸倒損失は計上できません(理由は次章)。
ただし、資本金1億円以下の中小法人(大法人の100%子法人等を除く)や個人事業者では、債務者に「破産手続開始の申立て」があった場合、その金銭債権(個別評価金銭債権)の50%相当額を上限に貸倒引当金の繰入れが認められます(法人税法52条、法人税法施行令96条1項3号ハ、所得税法52条、所得税法施行令144条1項3号ハ)。
全東信はすでに破産手続開始の申立て・開始決定に至っていますから、この事由は生じています。今期は未収売上金の50%を個別貸倒引当金として繰り入れるのが、現時点での標準的な対応です。
なお、貸倒引当金の繰入れは消費税の課税関係が生じない(不課税)点も押さえておいてください。
4. 貸倒損失は「いつ」計上できるのか——通達に「破産」がない理由
貸倒損失の計上時期は、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3(所得税は所得税基本通達51-11〜51-13)に整理されていますが、実は9-6-1(法律上の貸倒れ)に「破産」は挙げられていません。
9-6-1が対象とするのは、更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可、債権者集会の協議決定など、いずれも債権の切捨てが法的に確定する手続です。ところが、法人の破産手続には債権を切り捨てる制度がありません(免責制度は個人の破産のみ)。債権は配当が終わるまで法的には存続しているため、「法律上の貸倒れ」に当てはまらないのです。
したがって法人破産のケースでは、9-6-2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)により、「債務者の資産状況、支払能力等からみて全額が回収できないことが明らかになった事業年度」に、全額を損金経理して計上することになります。実務上の主なタイミングは次の2つです。
| タイミング | 内容 |
|---|---|
| ① 破産手続の終結決定・廃止決定の時 | 配当手続の完了等により法人格が消滅し、債権も消滅。最も確実な計上時期 |
| ② それ以前で全額回収不能が明らかになった時 | 破産管財人による「配当見込みなし」の証明等、客観的資料により全額回収不能が裏付けられる場合 |
逆にいえば、配当の可能性が残っている段階で全額を貸倒損失にすると、計上時期尚早として否認されるリスクがあります。「開始決定=即・全額損失」ではない点にご注意ください。担保や保証による回収可能部分がある場合も、その処理後でなければ全額貸倒れとはなりません。
5. 消費税の「貸倒れの税額控除」——今回は使えない可能性がある
もう一つ、見落としやすい論点があります。
売掛金等が貸し倒れた場合、貸倒れとなった金額に対応する消費税額を控除できる規定があります(消費税法39条)。ただしこの規定の対象は、「課税資産の譲渡等の相手方に対する」売掛金その他の債権です。
今回の未収売上金は、飲食等のサービスを提供した相手(カード決済をした顧客)への債権ではなく、立替入金サービス会社である全東信に対する立替金入金請求権と整理される可能性があります。その場合、「課税資産の譲渡等の相手方に対する債権」に該当せず、消費税の貸倒控除の対象外となる余地があります。
該当するか否かは、加盟店契約の内容や債権の法的性質を確認したうえでの個別判断となります。法人税の貸倒処理とセットで消費税も控除できると思い込まず、契約書を確認してください。
6. まとめ——対応チェックリスト
- 債権届出:破産管財人へ、届出期間内に必ず提出(貸倒処理・共済・保証の裏付けになる)
- 今期の処理:破産手続開始申立てを事由に、未収額の50%を個別貸倒引当金として繰入れ
- 貸倒損失:手続終結・廃止決定または配当見込みなしが客観的に明らかになった時点で全額計上。フライング計上は否認リスク
- 消費税:貸倒控除(消法39条)の対象外となる可能性あり。契約関係の確認を
- 他人名義等での加盟店契約があった店舗は、契約の有効性など別のリスクも。弁護士への相談を
当事務所では、貸倒引当金・貸倒損失の計上時期の判断、証憑の整理、消費税の取扱いの検討まで一貫してサポートしています。未入金額が大きく資金繰りに影響が出ている場合は、金融機関対応も含めてお早めにご相談ください。
本記事の内容は一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の処理にあたっては専門家にご相談ください。

