退職金課税ー勤続24年が勤続1年と判定された
3回目の退職金は「優遇なし」だった——勤続24年でも”勤続1年”と判定された早期退職加算金の話
※本記事は公表裁決(福裁(所)令7第8号)を題材にした、執筆時点(令和8年8月)の一般的な解説です。
退職金の税金は、なぜ安いのか
退職金には、給与にはない大きな税制優遇があります。
- 勤続年数に応じた退職所得控除(勤続20年まで年40万円、20年超は年70万円)
- 控除後の金額をさらに2分の1にしてから課税
- 他の所得と分離して課税
長年の勤労の対価が一時にまとめて支払われるものだから、という趣旨です。ところがこの「2分の1」には例外があります。勤続5年以下の場合です。
- 短期退職手当等(役員等以外で勤続5年以下):控除後300万円を超える部分は2分の1にできない
- 特定役員退職手当等(役員等として勤続5年以下):全額2分の1にできない
「勤続5年以下なんて自分には関係ない」と思った方ほど、今回の裁決を知っておく価値があります。通算では24年勤めた人が、“勤続1年”と判定された事例だからです。
事案——同じ会社から3回、退職金を受け取った
経緯はこうです。ある会社員の方が、
- 約20年間、一般社員として勤務 → 執行役員に就任する際、社員としての期間に対応する退職金を打ち切り支給で受領
- 3年間、執行役員として勤務 → 退任時に役員退職金を受領
- その後、一般社員に戻って1年間勤務 → 会社の早期退職募集に応募し、特別加算金(月収×45か月分)を受領
執行役員への就任時・退任時に退職金を精算する制度は、多くの会社で採用されている一般的な実務です。問題は3回目、早期退職の特別加算金の税務でした。
本人は「入社24年のキャリアの締めくくりの退職金」として通常の退職所得で申告。しかし税務署は「これは短期退職手当等だ」として更正処分を行い、審判所もこれを支持しました。
審判所の判断——勤続年数は「前回の精算後」からカウント
理屈はシンプルで、条文どおりの文理解釈です。
まず、早期退職の特別加算金は「退職により一時に受ける給与」なので退職手当等に該当します。本人は「早期退職の募集は入社時になかった制度で、短期在籍が予定されていたわけでも給与の後払いでもない」と主張しましたが、退職に伴って支払われる以上、性質は退職手当等です。
次に勤続年数。この方は特別加算金より前に、社員退職金と役員退職金の支払をすでに受けています。過去の期間に対応する退職金を精算済みである以上、特別加算金に対応する勤続期間は、一般社員に戻った後の1年間だけ。勤続5年以下ですから、短期退職手当等に該当する——という結論です。
影響は小さくありません。勤続1年なら退職所得控除はわずか40万円。月収45か月分という高額の加算金は、控除後300万円を超える部分について2分の1優遇が使えず、通常の退職所得として計算した場合と比べて税負担が大きく膨らみます。
経営者・人事担当者への教訓
① 退職金の「打ち切り支給」には、勤続年数のリセットという副作用がある 執行役員就任時や制度移行時に退職金を精算する仕組みは合理的ですが、精算のたびに、その後の退職金の勤続年数カウントは仕切り直しになります。精算後5年以内に次の退職金が発生すると、短期退職手当等・特定役員退職手当等の網にかかる可能性がある——制度設計時にここまで織り込んでいる会社は多くありません。
② 早期退職の加算金も「退職手当等」として同じ土俵で判定される 割増退職金・特別加算金は金額が大きくなりがちです。対象者の中に「過去に退職金の打ち切り支給を受けた人」「役員から社員に戻った人」がいる場合、その人だけ手取りが想定より大きく減ることがあります。募集要項の説明や本人へのシミュレーション提示の際、この論点を落とすとトラブルの元です。
③ オーナー企業の役員退職金設計にも同じ視点を 中小企業でも、分掌変更(社長→会長など)に伴う退職金の打ち切り支給や、役員退任→顧問・再雇用といった承継スキームは頻出です。その後に追加の退職金・慰労金を予定するなら、「前回の支給からの年数」が税務上の優遇を左右することを設計段階から考慮すべきです。退職金は事業承継の資金計画の柱ですから、支給のタイミング一つで手取りが変わるこの論点は軽視できません。
まとめ
- 退職金の2分の1課税には例外がある:勤続5年以下の短期退職手当等・特定役員退職手当等
- 勤続年数は入社からの通算ではなく、退職金を精算済みの期間は除いてカウントされる
- 打ち切り支給・役職の行き来・早期退職加算金が絡む場合、「通算24年でも勤続1年」があり得る
- 退職金制度の設計時・支給時には、過去の支給履歴の確認が必須
当事務所では、役員退職金・退職金制度の設計から、事業承継に伴う退任スキームの税務検討、支給時の手取りシミュレーションまで対応しています。分掌変更や早期退職制度の導入をお考えの際は、支給を決める前にご相談ください。
本記事の内容は一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。

