飲食料品の消費税1%減税|店内飲食の飲食店は納税額が増加?

2026年9月8日、自民党の税制調査会・社会保障制度調査会の合同会議で、飲食料品の消費税率を令和9年4月1日から2年間、1%へ引き下げる大綱案が議論されました。自民党と日本維新の会は、これを近く与党の税制改正大綱として決定する見通しです(9月10日時点)。

世間では「食料品が安くなる」という話題一色ですが、店内飲食を中心とする飲食店にとっては、これは減税ではなく増税です。

しかも対策の期限は、多くの飲食店にとって2026年12月31日。残り3か月半しかありません。

※本記事は大綱(案)段階の内容に基づくものです。今後の法案化・国会審議の過程で内容が変わる可能性があります。

01引き下がるのは「軽減8%」の部分だけ

今回の特例税率(1%)が適用されるのは、現行の軽減税率8%が適用されている飲食料品の譲渡(大綱案でいう「特例対象課税資産の譲渡」)に限られます。軽減税率の対象範囲そのものは、現行どおり維持されます。

売上区分現行令和9年4月~
テイクアウト・宅配・物販8%1%
店内飲食・ケータリング10%10%(据置き)

外食は、もともと軽減税率の対象外です。ですから今回の特例からも外れます。売上側は1円も下がりません。

一方で、仕入側は変わります。食材の仕入は軽減税率8%の対象ですから、1%に下がる。

構造としてこうなります

売上税額はそのまま、仕入税額控除だけが減る。本則課税の飲食店にとって、これは納税額の純増を意味します。

02数字で見る|納税額は約1.4倍に

税抜年商4,000万円、食材原価率30%(1,200万円)、その他の課税仕入800万円の店内飲食業で試算します。

店内飲食のみ・本則課税の場合
 現行改正後
売上税額400万円400万円
食材の仕入控除税額96万円(8%)12万円(1%)
その他の仕入控除税額80万円80万円
納税額224万円308万円

納税額は84万円の増加です。

ここで大事なのは、この84万円が「損」になるかどうかは、仕入先が税込価格を下げてくれるかどうかで決まるという点です。

  • 食材の税込支払額が1,296万円 → 1,212万円に下がれば、84万円の支払減と84万円の納税増が相殺されて±ゼロ
  • 税込価格が据え置かれれば(=本体価格が7%引き上げられれば)、約83万円がまるごと持ち出し

「据え置き」に流れる可能性は、低くありません

過去の消費税増税局面では、消費税転嫁対策特別措置法によって買いたたきや転嫁拒否が規制されてきました。しかし今回は引下げ局面です。本体価格の引上げ(いわゆる便乗値上げ)を抑止する枠組みは、現時点の大綱案には見当たりません。

食材メーカー・卸にしてみれば、原材料高・物流費高・人件費高の圧力を抱えたまま、税率引下げというタイミングが来ます。税込価格を据え置けば、値上げのアナウンスをせずに実質7%の値上げができてしまう。

飲食店側は「税率が下がったのに仕入が安くならない」という形でこれを受け止めることになります。そして納税額だけは確実に84万円増えている。資金繰りへの影響は、令和10年春の確定申告で一気に表面化します。

中間申告についても、大綱案の再計算特例は「納付税額が減少する事業者」を想定した措置です。納税額が増える店内飲食業は、前年実績ベースの中間納付では足りず、期末に差額をまとめて納めることになります。

03簡易課税なら、この影響を受けません

簡易課税制度は、実際の仕入税額を一切使わず、売上税額にみなし仕入率を掛けて納税額を算出します。仕入側の税率が8%から1%に落ちても、納税額は1円も動きません。

年商4,000万円・第4種(みなし仕入率60%)の場合
 現行改正後
本則課税224万円308万円
簡易課税160万円160万円
差額64万円148万円

現行では64万円だった差が、改正後は148万円に広がります。

しかも簡易課税なら、仕入先が税込価格を下げてくれた場合はその分がまるごと利益になり、下げてくれなければ現状維持。下振れリスクがありません。

テイクアウトを併営している場合

大綱案には、簡易課税事業者が特例対象の譲渡を行った場合、業種区分にかかわらず仕入控除税額を売上税額と同額とする(=その部分の納税額がゼロになる)特例も盛り込まれています。インボイス制度のいわゆる2割特例・3割特例の適用者も同様です。

ただし効果は限定的です。店内3,000万円+テイクアウト1,000万円(いずれも税抜)の店で見てみます。

 現行改正後
店内(第4種)120万円120万円
テイクアウト(第3種)24万円0円
合計144万円120万円

24万円の減少です。ゼロになるといっても、そもそも売上税額自体が1%(10万円)まで縮んでいるので、インパクトはこの程度にとどまります。

ここを取り違えないでください

簡易課税の本当の価値は「テイクアウトの納税がゼロになること」ではなく、「本則課税なら食らっていた84万円の納税増を回避できること」です。

04落とし穴|本則から簡易への救済措置は、ありません

大綱案には、届出書の提出期限に関する緩和措置が盛り込まれています。ただし方向に注意してください。

措置方向
課税事業者選択届出書を課税期間の末日までに提出すればよい免税 → 本則
簡易課税制度選択不適用届出書を末日までに提出すればよい(2年縛りも不適用)簡易 → 本則

いずれも、飲食料品を売る事業者を本則課税に移行させるための措置です。引下げによって還付側に回る小売・卸・製造業を想定した設計になっています。

本則 → 簡易という逆方向には、何の手当てもありません。

したがって、簡易課税制度選択届出書は消費税法の原則どおり、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。

決算期対象課税期間提出期限
個人事業者・12月決算法人令和9年1月1日~12月31日2026年12月31日
3月決算法人令和9年4月1日~令和10年3月31日2027年3月31日

飲食店は個人事業主が多い業種です。大半の店にとって、期限は年内ということになります。

個人事業者・12月決算法人の提出期限 2026年12月31日 簡易課税制度選択届出書

05判断する前に確認すべき3点

① 基準期間の課税売上高が5,000万円以下か

簡易課税の大前提です。原則として前々年(前々事業年度)の課税売上高で判定します。

② 高額な設備投資をしていないか

調整対象固定資産や高額特定資産を取得していると、いわゆる3年縛りにより簡易課税の選択自体ができません。直近で新規出店や大規模改装を行った店は、そもそも選択肢がない可能性があります。

③ 2年通期で有利か

簡易課税を選択すると、原則として2年間の継続適用義務が生じます。特例税率の期間は令和9年4月~令和11年3月の2年間で、その後は8%に戻ります。単年で切って判断すると読み違えます。税率が戻った後の期間も含めた通期での試算が必要です。

もうひとつの厄介さ

期首前に判断を確定させなければならないのに、その時点では改正法がまだ施行されていません。12月決算の事業者は「まだ始まっていない制度を前提に、判断だけ先に済ませる」ことになります。

06まとめ

  • 特例税率1%の対象は、現行の軽減税率8%が適用されている飲食料品のみ
  • 店内飲食は売上10%のまま据置き。仕入税額控除だけが減るため、本則課税なら納税額が純増する
  • 仕入先が税込価格を据え置けば、増加分はまるごと持ち出しになる
  • 簡易課税なら納税額は変わらず、下振れリスクもない
  • ただし本則→簡易には届出期限の救済措置がなく、多くの飲食店は2026年12月31日が期限

「減税だから様子を見ればいい」という話ではありません。様子を見ていると、選択肢そのものが期限切れで消えます。