【シミュレーター付き】自社株の新評価方式「残余利益方式」で、あなたの会社の株価はどう変わる?
「自社株の評価方法が変わるって本当?」「うちの会社の株価は上がるの?下がるの?」
最近、事業承継をお考えの経営者の方から、こうしたご質問をいただくことが増えています。
国税庁は2026年9月16日、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第6回会合を開催し、非上場株式の新しい評価方法の原案である「残余利益方式」について、評価額がどの程度増減するかの試算を示しました。
ただし、公表資料は数式が多く、一見しただけでは仕組みがわかりにくいのが実情です。今回は、この新方式の考え方と、オーナー経営者にとっての実務的なポイントを、できるだけ数式を使わずに解説します。
※本記事は2026年9月時点の有識者会議資料に基づくもので、制度はまだ検討段階です。還元率(8%)やしんしゃく率などの数値も「仮定」であり、今後変わる可能性があります。
- 国税庁が、非上場株式(自社株)の評価方法を「残余利益方式」という新しい考え方に切り替える方向で検討中です。
- 基本的な考え方は「会社の純資産」+「8%を超えて稼ぐ力(5年分)」で評価します。
- 国税庁の試算では、大会社は評価額が上がる一方、小会社は下がる傾向。事業承継の対策タイミングに影響する可能性があります。
1. 現行の自社株評価の仕組み
現在、非上場会社の株式は主に次の2つの方法を組み合わせて評価しています。
| 評価方法 | 概要 | 主に使う会社 |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式 | 同じ業種の上場会社の株価と比べて、「配当・利益・純資産」の3つを比較して評価 | 大会社・中会社 |
| 純資産価額方式 | 会社の資産を相続税評価額で洗い直し、負債を引いた「正味の財産」で評価 | 小会社・資産管理会社など |
この仕組みには、「規模の大きい会社ほど、純資産に比べて評価額が低く出やすい」という不公平感が以前から指摘されていました。実際、国税庁の試算では、現行の大会社の評価額は純資産の約38%、小会社は約64%という水準(いずれも中央値)です。
こうした規模による評価のばらつきを、理論的な根拠をもって整理し直すことが今回の見直しの出発点です。
2. 新方式「残余利益方式」とは
残余利益方式では、会社の価値を次のように考えます。
純資産(元手) + 5年分の
「残余利益」(元手以上に稼ぐ力) × しんしゃく率(0.7〜1.0で検討) = 株式の
評価額
※しんしゃく率は「純資産+残余利益」の合計に掛けます
「残余利益」ってなに?
ここが新方式の最大のポイントです。株主(オーナー)は会社に資本を出している以上、「最低限これだけは稼いでほしい」という期待ラインがあります。国税庁の原案では、このラインを純資産の8%(仮定)としています。
例:純資産1億円の会社なら、期待ラインは800万円。
利益が1,000万円なら → 残余利益は+200万円(期待以上に稼いでいる)
利益が500万円なら → 残余利益は▲300万円(期待に届いていない)
つまり、「純資産に対してどれだけ効率よく稼いでいるか(ROE=自己資本利益率)」が評価額を左右します。
※上記はしんしゃく率を掛ける前の考え方です。
「5年分」「割り引く」の意味
将来の利益はどこまでも予測できるわけではないので、現実的な予測期間として「5年程度」に区切る案が示されています(中期経営計画の標準的な期間とも一致)。
また、「5年後の100万円」は「今の100万円」より価値が低いので、将来の残余利益は8%ずつ割り引いて「今の価値」に換算してから足し合わせます。計算式の分母にある「(1+0.08)の○乗」はこの意味です。
3. 具体例で見る計算の流れ
国税庁が示した計算例を、表にして順番に確認していきます。
- 直前期末の純資産:1億円
- 毎年の利益(税引後):1,000万円
- 毎年の配当:200万円(→ 毎年800万円ずつ純資産が増える)
- 還元率:8%、しんしゃく率:0.8(いずれも仮定)
- 毎年の「期待ライン」を出す
その期首の純資産 × 8%。純資産が毎年800万円増えるので、期待ラインも少しずつ上がります。 - 残余利益を出す
利益1,000万円 - 期待ライン。 - 今の価値に割り引く
1年目は1.08で割り、2年目は1.08の2乗で割り…と5年分計算。 - 純資産に足して、しんしゃく率を掛ける
| 年 | 期首の純資産 | 期待ライン (×8%) | 利益 | 残余利益 | 今の価値に 割引後 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 100,000,000 | 8,000,000 | 10,000,000 | 2,000,000 | 1,851,852 |
| 2年目 | 108,000,000 | 8,640,000 | 10,000,000 | 1,360,000 | 1,165,981 |
| 3年目 | 116,000,000 | 9,280,000 | 10,000,000 | 720,000 | 571,559 |
| 4年目 | 124,000,000 | 9,920,000 | 10,000,000 | 80,000 | 58,802 |
| 5年目 | 132,000,000 | 10,560,000 | 10,000,000 | ▲560,000 | ▲381,127 |
| 残余利益(割引後)の合計 | 3,267,068 | ||||
100,000,000 + 残余利益合計
3,267,068 × しんしゃく率
0.8 = 評価額
約8,261万円
この会社は最初はROE10%(1,000万円÷1億円)で期待ラインを上回っていますが、配当せずに内部留保が積み上がるほど、ROEが下がって残余利益が減っていくことがわかります。5年目にはマイナスに転じています。
つまり、利益を内部に貯めるだけでは評価は伸びず、蓄えた資本を効率よく活用して稼いでいるかが評価に反映される仕組みです。
4. 簡易シミュレーター
決算書の数値を入力すると、上記の計算を自動で行います。考え方を把握するための簡易試算としてご活用ください(毎年の利益・配当は一定と仮定しています)。
※実際の制度では、法人税申告書ベースの数値、非経常的な損益の除外、減損等の調整などが入る見込みです。正確な評価は専門家にご相談ください。
5. 会社規模別の評価額への影響
国税庁は、会計検査院と国税庁が把握した1,378社の申告データを使って、新方式にした場合の評価額を試算しました(加算期間5年・還元率8%と仮定)。
| 区分 | 現行の 評価水準 | 残余利益方式(しんしゃく率別) | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 1.0 | 0.9 | 0.8 | 0.7 | ||
| 全体 1,378社/ROE中央値1.8% | 58.2 | 71.6 +28.1% | 64.4 +15.2% | 57.3 +2.3% | 50.1 ▲10.4% |
| 大会社 128社/ROE中央値3.9% | 38.2 | 79.8 +114.7% | 71.8 +93.2% | 63.8 +71.7% | 55.8 +50.3% |
| 中会社 820社/ROE中央値2.1% | 53.4 | 74.0 +40.2% | 66.5 +26.1% | 59.2 +12.1% | 51.7 ▲1.9% |
| 小会社 430社/ROE中央値0.6% | 63.8 | 63.2 ▲1.9% | 56.8 ▲12.0% | 50.5 ▲21.8% | 44.2 ▲31.6% |
上段:純資産価額を100とした場合の評価額の水準(中央値)/下段:現行の申告評価額の中央値を100とした場合の増減。出典:国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第6回資料をもとに作成。
この表の読み方
- 大会社:現行は純資産の約4割と「割安」な評価でしたが、新方式では大幅に上昇。しんしゃく率0.8なら純資産比63.8となり、現行の小会社とおおむね同水準になります。
- 中会社:しんしゃく率が0.8以上なら上昇、0.7ならほぼ横ばい。
- 小会社:もともと純資産ベースで評価されていたうえ、ROEが低い会社が多いため、どのしんしゃく率でも下がる傾向です。
つまり国税庁は、「会社の規模にかかわらず、純資産に対して同じくらいの水準で評価する」方向を目指していると読み取れます。
6. その他の主な検討事項
| 論点 | 検討されている内容 |
|---|---|
| 計算のベース | 会計上の決算書ではなく法人税申告書の数値を使う案。受取配当の益金不算入や特別償却なども反映された数値になります。 |
| 減損 | 多額の含み損がある資産は、決算公告等で減損を明らかにしていること等を条件に、簿価が相続税評価額を上回る部分に限って反映。 |
| オペレーティングリース | リース取引で損益を動かす「利益操作」を防ぐため、その取引がなかったものとして修正して評価。 |
| 役員退職金など | 一時的な損失は、正常な利益の計算上除外する(=退職金で利益を下げても評価は下がりにくくなる)。 |
| 子会社株式 | 完全支配関係にある子会社株式に限り、簿価ではなく適正な価額に修正して親会社の評価に反映。グループ法人税制を使って親会社の資産を子会社へ移し、評価額を圧縮するスキームへの対応とされています。 |
| 従業員持株会 | 一定の要件を満たせば、持株会の株は固定価格で評価。それ以外の株は、企業価値総額から「固定価格×持株会の株数」を控除して評価。 |
| 資産管理会社 | 投資目的等の「特定資産」が総資産に占める割合で判定し、純資産価額方式で評価。事業承継税制の「資産保有型会社」「資産運用型会社」を参考に形式基準を設定する方向。 |
次回以降の会議では、純資産価額方式や配当還元方式の見直しも議論される予定です。
7. オーナー経営者が今から備えるべきこと
制度はまだ検討段階ですが、事業承継は5年・10年単位で進めるものです。制度が確定してから検討を始めるのでは、選択肢が限られてしまう可能性があります。
- 要注意大会社・中会社のオーナー:新方式で評価額が上がる可能性。現行制度のうちに株式の移転(生前贈与・持株会社化など)を前倒しで検討する余地があります。
- 要注意役員退職金やリースで株価を下げる対策を予定している会社:新方式では効果が限定される可能性があります。
- 要注意資産管理会社・不動産保有会社:判定基準が変わると、評価方法そのものが変わる可能性があります。
- 小会社・利益水準が低い会社:評価が下がる可能性があり、あえて「施行を待つ」選択肢も考えられます。
重要なのは、「現行の評価額」と「新方式での概算評価額」の両方を把握しておくことです。その差が、対策を急ぐべきか、施行を待つべきかの判断材料になります。
8. まとめ
残余利益方式は、会社の「純資産」と「期待を超えて稼ぐ力」で株式を評価する考え方です。現行制度に比べて理論的な根拠が明確になる一方、会社の規模や収益力によって評価額が大きく上下する可能性があります。
特に、これまで比較的低く評価されてきた大会社・中会社や、役員退職金などで株価の引下げを計画している会社にとっては、承継対策の前提そのものが変わりかねません。
自社株の評価は、株主構成・資産内容・今後の収益見通しによって結果が大きく異なります。制度の動向を踏まえたうえで、早めに自社の現状を数字で把握しておくことが大切です。
自社株評価・事業承継に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせはこちら【ご注意】本記事は2026年9月16日開催の国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」(第6回)の公表資料をもとに、制度の考え方をわかりやすく解説したものです。記載の還元率・しんしゃく率・加算期間等は検討段階の仮定値であり、最終的な制度内容・施行時期は未定です。個別の判断にあたっては専門家にご相談ください。
参考:国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第6回 資料

